Many and Very

いつ死んでもいいように、なるべくがんばって生きたいだけ。

ニースへ

もう考えてみれば10年前のことだから、どうやって私がイタリアからニース、そしてマルセイユまで行ったのが覚えてないけど、

とにかく私はイタリアから、南仏をめざしたことがある。

 

目指したことがある、なんて書くと大げさな響きなんですが、ただ隣の国なんで普通にイタリアから電車に乗ってガタゴト向かっただけです。

しかも新幹線的なやつなんでガタゴトすらもしないという快適なやつです。

 

2ヶ月間のヨーロッパ周遊をしていた26歳のとき、わたしはフィレンツェでひどいかぜをひいてしまった。

唾液を飲み込むのも困難なくらい咽頭が腫れ上がり、声を出すのもしんどい、身体がしんどいと全体的なオーラというか元気がなくなるので、旅の道連れを探そうとか、片言の英語で誰かと関わろうとか、そんな気分にまったくなれなかったことを覚えている。

 

たまたまフィレンツェのユースで知り合った大学生の男の子と別れた寂しさもあり、毎日体がだるいのでもっさりとしているのももったいないし、元気にならないと行き先も決まらないとか思って、海外旅行保険会社に連絡して、医者を用意してもらった。

 

ココ(咽頭部)がはれている、お薬をだします、とイタリア語と日本がまざったような説明をされたあとお薬を何錠かもらい、それを飲んでなんとかフランスに向かっていた。

 

どんな電車にのったとか、そのときどんなものを食べたとか、そういうことは覚えてないのに受診したときの診療所だとか、医師の顔だとか、銀のシートに入っている薬のことだとか、そんなことばかりうっすら覚えていて、人の記憶に残る出来事というのは、どんなことで選別されているんだろうと、自分のことなのにまるでわからない。

 

とにかくそんな様子で南仏に向かい、なんとかたどりついたニースのホテルで、私は旅の疲れと風邪を癒すために一日中眠っていた。

 

 

ニースは良かった。気候もいいし、街並みもいい。雑貨も素敵だし、のんびり明るくて、暖かくて、雑誌でみるような、本に出てくるようなイメージそのものだった。

 

私は薬でなんとか咽頭の腫れが引いたのを確認して、とぼとぼと散歩にでかけた。

 

たしかシャガールマティスの美術館が近くにあったはず、もうボロボロになった地球の歩き方ヨーロッパで場所を確認して、坂道をせっせと登り、途中庭仕事をしているおじいさんに「ボンジュー」なんて声をかけてもらいながら、美術館に着いた。

 

シャガール美術館に行ったのか、それともマティスの美術館にそれがあったのかもう忘れてしまったけど、とにかくニースで見たものの中で一番心がふるえたのは、あのシャガールのステンドグラス。

 

キラキラと海にいるような深い青で、しんとした音のない教会、治りかけのひどい風邪、徐々に戻ってくる私の元気、友だちも誰もいないで、ただリュックサックとスニーカーとボロボロのTシャツで見た、あの奇跡みたいに綺麗で暖かなステンドグラス。

 

ニースに来て良かったと思った。モナコで遊ぶ服もお金も持ってないけど、これ一人で見に来れただけ、来て良かった。眠り続けたホテルの1室のことはおぼろげだけど、きっと一生忘れないだろうなって思い出が、あの時できてよかった。

 

 

って突然なにって、先ほどまで角田光代さんの「ひそやかな花園」を読んでいて、そのラストシーンの結婚式で、登場人物が自分のヨーロッパ旅行のことを思い出して演説するんだけど、

家にいたら何も始まらない、動きださないと楽しいものには何も出会えない、楽しいこと嬉しいことに出あうためには、自分が行動してみないとわかんない、みたいなところを読んで、私も唐突にこの旅行のことを思い出したのです。鮮やかに。

 

20代の最高の青春時代に、あれ行っておいて良かった。

 

あとから考えて「しておいてよかった」「やってよかった」と言えるかどうかというのは、私の人生のなかで大事な指針な気がする。

仕事や会議や日々の活動でも「してよかった」と思えるように行動したいと日々わりと心がけてます。

 

 

そういえばそれとは全然関係ないんだけども、先ほど激しい腹痛に襲われてトイレに1時間弱こもってました。

 

陣痛と出産を思い出させてくれるような腹痛だったんだけど、自分のダルついた腹をさすりながら「これで緊満あったら救急レベル・・・・」などと置かれた状況を散らしていた。

 

色々と終了してぐったりしてリビングに戻ると、ピーナッツ菓子(H氏の好物)をポリついてたH氏に「だいじょぶぅ?」なんて心配されて、

 

クッションに横になりながらしばし放心したあと、「1回セックスしたくらい体力消耗したわ」と告げた。

 

H氏は5秒くらいポリついたままNetflixの「ナルコス」をみていたけど、半分口をゆるませて「なに、そんなに消耗してんの」と言った。

 

私は「うん、めちゃめちゃしんどかったもん、お腹いたすぎて超疲れた・・・」と言うと、H氏は「いや、そっちじゃなくてさ」と言うのだった。

 

私はH氏にそういうことを言うと「ばかじゃないの」とか叱咤されると思っていたが、意外な反応であった。夫婦で性的なジョーク言うのあんまりないなぁ。というか最近は下ネタあんまりしませんね。若いときは中年の下ネタは生々しくてキモいとか感じてましたが、そういうことなんでしょうか。

 

なにがそういうことなんだっていう。

 

 

さて、今日からはまた司馬遼太郎読む予定。今回は意志を貫き通せるか・・。司馬遼太郎読むのは強い意志が必要なんだよなぁ。

そう思いませんか、思いません。そうですか。

 

 

おやすみなさい。